7月 02 2009
富者の万灯より貧者の一灯
あるときマガダ国の王が家来にむかって「釈尊は、よい政治を行うには、国王はこうあらね
ばならぬということを指導してくださった。お陰で闇夜に光明を得たようで道が開かれた。
そのお礼に何か布施したいが何がよかろう」と聞かれた。
色々と思案した末に、その家来は「王様、王様が今申されました、闇夜に光明を得たるが
ごとくの、おおせの通り、この国が光り輝くことになりますよう、道路に灯明をともして、今一
度世尊にお出ましを願い、ご法話を拝聴させていただいたらいかがでしょうか」と答えた。
このマガダ国王の住む宮廷は、釈尊がいられる竹林精舎から少し離れた所にありました。
「しかし、ここから竹林精舎までは、かなりの道のりではないか」と王が言うと「釈尊に帰依
する者達に呼びかけて、献灯してもらったらいかがでしょうか」と家来が答え、献灯の志を
つのることになりました。
すると多くの人が、それぞれ分に応じて十灯、二十灯と献灯し、お金持ちは功徳を積ませて
もらいたいと、百灯、千灯と献灯され、たくさんの灯明が集まりました。
この話は、遠くコーサラ国にも聞こえ、祇園精舎を寄進したスダッタ長者は一万灯を献じま
した。それを聞いたマガダ王は、スダッタ長者が一万灯献じたのならと三万灯を献じ、たくさ
んの灯明が準備されていったのです。
このマガダ国に一人の貧乏な乙女がいました。この乙女の名はスジャータといい、おおよそ
この世にこれ以上貧乏な家はないだろうと思われるほどの、貧乏な家に育ちました。けれど
も仏様の尊さを誰よりも知っていたスジャータは、献灯の話を聞き喜びました。
「なにか布施したいと前から思っていたが、やっと自分達にも布施できる機会が与えられた。
こんなありがたいことは、もう二度とないかもしれない。せめて一灯なりとも献じて、み仏のお
み足をお照らししたい」
そう思ったスジャータは、それから一生懸命働きます。しかし、家には病んだ母がいて一文も
余計なお金はでてきません。だんだん献灯の日は近づいてきますが、とても一灯を献ずるお
金などできそうにありませんでした。どうしたらよいだろうと思うと、ただ泣けるだけでした。
いよいよ釈尊が、王宮にお出ましになられるという日、スジャータは思い切って長い黒髪をプ
ッツリ根元から切り、油に換えに行きます。昔の日本もそうでしたが、インドでも黒髪を切ると
いうことは、女として生きること、女としての幸せをあきらめるということを意味していました。
黒髪を切って坊主になった頭を布で包み、この黒髪を油に換えてほしいとスジャータが油屋
の主人にいうと、油屋の主人は驚き、「みればたいそう困っていなさるようだが、なんだって
髪の毛まで切って油を買いなさる」と聞きます。スジャータは「人は生きてさえいれば、何とか
食べていけます。今まで貧乏で、み仏様に対して何一つ布施することができませんでしたが
、このたび王様の思し召しにより、献灯の機会を与えられました。せめて心ばかりの一灯を
捧げたいと思います」と答えます。
それを聞いた油屋の主人はスジャータの純粋な心に感激し、油をたくさんまけてくれました。
その油を入れた灯明を持ちスジャータはお城に走ります。城ではもう釈尊の説法が始まって
いました。
「どこの隅でも結構でございます。この一灯を献じたいのですが……」
係の武士に頼みますが、スジャータのみすぼらしいかっこうを見た、係の武士達は、
「ここはお前のような者がくるところではない」「なんだ今頃たった一灯か」「そんな、少しばか
りの油では半夜もともせまい」「ぐずぐずしてると釈尊がお通りになる、邪魔だからどいた、ど
いた」と口々に罵ります。
スジャータは泣き出しそうな気持になり、今度は竹林精舎の方に走ります。すでに日も暮
れ献灯に火がともされ、道は燦然と輝いています。
竹林精舎の入り口のところまで駆け付けたスジャータは、そこにいた人に一心に叫びました。
「お願いでございます。どうかこの灯を献じさせてくださいませ」
そこにいた人は祇園精舎を寄進したスダッタ長者でした。事情を聴いたスダッタ長者は、「そ
ういう一灯こそ尊いのです。きっと釈尊も喜んでお受けになります。真心のこもった灯(ともし
び)ですから、一番高い所につるしましょう。もうすぐ釈尊がお帰りになります」と言われます。
それを聞いたスジャータは、せめて一目だけでも釈尊を拝しようと、スダッタ長者の足下にう
ずくまっていました。それを見た町の人々は「あの貧乏な小娘が……」と、口々に小さく罵り
ます。
いづらくなったスジャータは、自分の献じた灯が消えたら帰ろうと思い、うずくまって自分の
献じた灯をじっと見つめていました。スジャータの眼には涙があふれていました。
すると不思議なことが起きます。他のほとんどの灯明の灯は消えたのに、半夜ももたない
といわれていたスジャータの灯は、こうこうと輝いています。少し強い風が吹いて他の灯明
はすべて消えましたが、まだスジャータの灯だけは消えず輝いていました。
すべてを見通していられた釈尊は、弟子の大目蓮に「大目蓮よ、あの灯は夜が明けるまで
消えずに燃え続けるであろう」と言われ、釈尊がいわれたとおりスジャータの灯は、強い風
が吹き、吹き消されるであろうとおもうと、なお一層燃え上がるのでした。
釈尊はスジャータを近くにお召しになり、スジャータの過去世の話をして「しかし、今生では
心からの一灯を捧げた。これから後は自ずと幸いを得るであろう」といわれました。
マガダ王は、貧しい一乙女が釈尊に褒められたと聞いて、あまり面白くありませんでした。
自分は万灯を献じたのに、釈尊から一言の喜びの言葉ももらえなかったからです。
それを家来にいうと「王様、あの娘の捧げた献灯はわずかでしたが真心がこもっておりま
す。王様が献じられたものは、どれだけたくさんの万灯とはいえ、国民から納めさせた税
金ではありませんか。王様がされた献灯には、これだけのことをしたという驕慢の心が含
まれております。釈尊に捧げた、あの乙女の真心はまことに純粋であります。自分の髪の
毛を売ってまで油を買ったのです。王様は自分のなにを売って献灯されたというのでしょう
か」「いやよくわかった。あの娘はよいことを教えてくれた。あの母子を引き取って世話をし
てやりたい」
王はスジャータの純粋な真心を知って反省し、スジャータ母子の面倒をみることにしたの
です。
その後、スジャータは釈尊がいわれたとおり、



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